※本稿は産経新聞の寄稿を編集・抜粋しています。
夏休み明け前後は1年で最も子供の自殺が増える時期という。
20年に渡り、不登校経験者ら400人以上を取材してきた、「不登校新聞」の石井志昂(しこう)編集長は今月、『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ新書)を出版した。
子供のSOSに気づき、命を守るために親はどうしたらいいのだろうか。石井氏に取材を試みた。
不登校の当事者へのメッセージ本は多く出回っているが、本書は親に向けた本だ。
「親の価値観が変わることで子供が楽になる例がすごく多い」と出版の意図を説明する。
石井さん自身も不登校の経験者だ。
中学2年から学校に行けなくなり、フリースクールに通うように。
19歳の時から、不登校や引きこもりの専門紙「不登校新聞」のスタッフとなり、当事者らへの取材を続けてきた。
親子双方から話を聞くことで、「子供側がつらかったこと」「親がよくしてしまう失敗」などが見えてきたという。
「子供は学校に行けないことで苦しんでいます。親が、『子供は学校に行くもの』ではなく、『育ち方は人それぞれ』という価値観に変わることで、家庭が安心して休める場所になるんです」と話す。
「ゲームを取り上げた方がいいか」「昼夜逆転の生活はどうしたらいい?」「家庭にいて社会性は身につくのか」など、生活上の注意から言葉のかけ方まで親が気になる点を、取材に基づいて提案。
子を大事に想う親にとってお守りとなる1冊になっている。
コロナ禍となった昨年、小中高生の自殺者数が499人と過去最多になった。
昨年8月の自殺者数は65人で前年同月の約2倍に。今年の1~6月の自殺者数の合計は昨年を上回った。
石井さんは「いつ終わるか分からないコロナによる慢性的なストレスに、子供たちは息苦しさを感じています。学校生活がきつかった生徒が背中を押されるように不登校になったり、ストレスをためた人からいじめを受けてしまったりと厳しい状況」と指摘する。
最悪の事態を防ぐために重要なのは、「子供のSOSをキャッチする」こと。
代表的なものが、「体調不良」「食欲不振」「情緒不安定」「不眠」だ。
特に夏休み明けに向けて注意したいのが「宿題が手につかない」だという。
「さぼっているように見えるかもしれませんが、何らかの精神的な圧迫の結果、宿題に取り組めないこともあります。いつもと様子が違っていたら、声をかけてほしい」と訴える。
親に求められているのは傾聴だ。
「子供がうまく話せないこともあるかもしれません。でも、学校に行けない理由に明確に気づいていることの方が少ない。理由を聞く必要はなく、『今の気持ち』や学校へ行こうとすると体調を崩してしまうような『状況』から判断するべきです」。
「明日1日だけ行こう」「もう少し頑張ってみよう」と励ますのは、かえって追い詰めてしまうのだという。
「ストレスで限界になって、『行きたくない』と相談しているのに、『がんばれ』と言われてしまうと、『この人は自分のことを分かってくれない』『ほかに道はない』とつらくなってしまいます」
学校に行けない苦しみは徐々に社会に理解されるようになってきたが、「不登校の当事者が抱える孤立感、社会から否定されたような気持ちは、この20年変わりませんでした」と明かす。
今は、「学校に行って教室で学ぶ」以外の選択肢が少ないため、学校に行けないと自分を否定して苦しんでしまうのだ。
石井さんも「もう生きている意味がない」と思い悩んだこともあったが、フリースクールという「学校以外の場所」を知っていたことが救いになったという。
「学びが多様化したら救われる命もあるのではないでしょうか。学校は手段であって目的ではない。不登校になっても行く先があるという情報だけで、一命をとりとめることがある」
文部科学省の調査によると、不登校を経験した人の8割以上が高校に進学している。
心身が回復した後、進学する子供も多い。
不登校は回り道でもなく、成長の一つの過程だという。
「わが子が不登校になったとき、動揺しない親はいません。誰もが不安になります。それでも学校に行きたくないという言葉は、命にかかわるSOSです。勉強や社会性は後から取り返しがつきます。まずは、子供が心から安心できる状況を取り戻してもらえたら」と述べている。