「かかりつけ医」でコロナワクチンを接種するよう言われても、かかりつけの医師がいない――。
若い世代を中心にこんな戸惑いが広がる中、東京都葛飾区が15日、「初診でも接種してもらえる医療機関」のリストを公表した。
一方で、かかりつけ医だと思っていたのに断られたとの声もあり、「そもそも、かかりつけ医とは?」という問いも浮かび上がっている。(石川貴章)
[本稿は読売新聞オンラインの寄稿を一部編集・抜粋しています。]
葛飾区では、もともと高齢者のインフルエンザワクチンの予防接種を、地域のクリニックなどの医療機関で実施してきた。
高齢者はかかりつけのクリニックや病院を持っている人が多いためで、これまで円滑に接種が進んできたことから、区は新型コロナウイルスワクチンについても、地域の医療機関による個別接種を中心に実施することを決めた。
区としては、「かかりつけ医なら患者の持病などを把握しているはずなので、副反応が起きても迅速に対応できると考えた」という。
5月に始まった65歳以上のコロナワクチンの個別接種では、かかりつけ医を巡る目立った混乱は起きなかった。
しかし、7月中旬に64~40歳、同下旬に39~12歳の予約受け付けが始まると、「初診の患者には接種できないと断られた」「どこに申し込めばいいのか分からない」といった問い合わせが100件以上、寄せられたという。
若い世代は基礎疾患などがまだなく、かかりつけ医を持たない人が多いためとみられる。
日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が全国の成人約1200人を対象に昨年7月に実施した意識調査では、「かかりつけ医がいる」と答えたのは70歳以上は8割を超えたのに対し、20歳代は21%、30歳代は34%と低い。
この事態を受け、区は管内の医療機関に再確認し、初診でもワクチン接種が可能な医療機関(約100か所)の一覧を作成。
8月15日号の広報紙に掲載して各戸に配布し、区の公式ホームページでも閲覧できるようにした。
区保健予防課の担当者は「若い人たちが接種を申し込みやすい環境を整えようと思った」としている。
「かかりつけ医」の定義について、日本医師会は「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」などとしている。
ただ、法律上の定義や明確な線引きはない。
今年5月の参院厚生労働委員会では厚生労働省幹部が「地域の状況や患者像などによって、かかりつけ医のあり方は相当幅があると考えている」と答弁している。
こうした中、「かかりつけ医だと思っていたのに接種予約を断られた」というケースも出ている。
島根県浜田市によると、市内の接種希望者らから、かつて受診したことのある医療機関に数年ぶりに問い合わせたところ、かかりつけとは認められなかった――という声が複数寄せられたという。
市は個別接種の実施医療機関に確認した上で、市民向けの一覧表に「1年以内の通院患者に限る」「25歳以上の通院歴のある方」などの情報を載せることにした。
市の新型コロナウイルスワクチン対策室の担当者は「できるだけ認識の行き違いを防ぎ、円滑に接種を進められるよう、今後も情報を発信していきたい」としている。
こういった混乱を前野哲博・筑波大教授(総合診療)は、「医療機関側は希望者全員に打ちたいと思っているが、ワクチンの供給量や時間などに制約があり、かかりつけの患者を優先せざるを得ない」と述べている。
しかし一方では、「かかりつけ医の明確な線引きがないことで混乱も起きている。どこで接種できるのか、行政が情報を一元化するなどして、住民が効率的に接種できる方法を模索するしかない」と指摘している。