※本稿は、江端 浩人(えばた ひろと)氏による東洋経済オンラインへの寄稿を一部編集・抜粋しています。
企業の副業(複業)解禁が相次ぐ昨今。
「自分もチャレンジしたい!」と思いつつも、「何から始めればいいかわからない」だったり「失敗が怖くてスタートできない」だったりと、二の足を踏んでしまっている人もいるのではないでしょうか。
そこで今回の記事では、数々の複業を経験し『【スタンフォード式】世界一やさしい パラレルキャリアの育て方』を上梓した江端 浩人氏が、「一歩目を踏み出す」うえで知っておきたい知識・マインドをお伝えします。
複業(副業)をはじめてみたいけれど、失敗が怖くてなかなか一歩を踏み出せない――そんな人も多いでしょう。
しかし、挑戦したら必ず成功しなければならないわけではありません。
失敗したら、そこから達成できそうな目標を新たに立てればいいのです。
必ず成功しなければいけないと考えると、プレッシャーになって一歩が踏み出しにくくなります。
だから「失敗してもそれが経験になる」と失敗を含めたイメージを持ち、実際に失敗したときには「どうしたらこの失敗をプラスにできるか」と考えるのです。
ただ、これは「最初から失敗を目標にする」とは違います。
その点は勘違いしないようにしてください。
成功することだけを目指して挑戦しなくてもいい、という意味です。
「Contingency Plan」という言葉があります。
これは「代替プラン」を意味する言葉で、つねに「Contingency Plan」を用意しておくべきだと思っています。
経済危機や自然災害でも「数十年に一度の○○が起きてしまい、想定外でした」などと表現することがあります。
でも、数十年に一度であれば、自分が生きている間に、少なくとも1回は起こるわけです。
そこで事前に「Contingency Plan」をつくっておけば、危機に直面しても大きな失敗になりません。
「これしかない」と思って突き進んでしまって失敗すると、落ち込んで二度と立ち上がれなくなってしまうこともあります。
しかし複業の場合、失敗しても本業やほかの複業があります。
リスクヘッジできているので、また違う方法で挑戦できるのです。
元マクドナルドCMO(Chief Marketing Officer)の足立光氏がマクドナルド時代に「キャンペーンが失敗するのは怖くないですか」との質問を受けて「怖くない」と答えたそうです。
その理由は、「失敗したキャンペーンはみんな速攻で忘れるからです」というもの。「なるほどな」と思いました。
私の経験でも、失敗で周囲に悪い評価を受けたとしても、半年も経てばみんな忘れています。
それくらいの楽な気持ちで始めてみたほうがいいでしょう。
中には、「自分は心配性だからなかなか最初の一歩を踏み出せない」「心配性なので副業には向いていないかもしれない」と考える人もいるでしょう。
心配性という言葉は、一般にネガティブなイメージがあります。
自分が「心配性」だと自覚している人は、「できれば克服したい」と考えているのではないでしょうか。
しかし、複業するうえでは「心配性」が逆にメリットになります。
そもそも「心配性」の人は、考える力が強く、脳のポテンシャル(潜在能力)が高いと私は考えています。
この力を複業に転換できたら、ものすごい威力を発揮するでしょう。
問題は、なかなか踏み切れないことです。
心配性の人は試してみる前からさまざまなリスクを考えてしまうので、最初の一歩を踏み出せません。
しかし、事前にさまざまなリスクを想定しているので、いざ踏み出したときは成功確率が高いのです。
逆に楽観的な人は、あまり深く考えずにチャレンジできるので複業にもすぐに参入できます。
代わりに成果は出しにくいのが欠点です。
つまり、1回当たりの成功確率は低くなるのですが、楽観的な人はチャレンジの回数が多いので、成功する人も多くなります。
ここで言いたいのは、心配性の人には心配性のメリットがあるということです。
心配性でも消極的にならず、「成功確率が高いんだ」と思ってチャレンジしてください。
また、過去の失敗がトラウマになっている人もいるかもしれません。
その場合、同じような場面に遭遇すると、「あのときに失敗したのと同じパターンだ」とか「これは苦手だ」と感じ、思考停止に陥った結果、マイナスの結論しか出なくなってしまうこともあります。
そんなときは、逆に考えてみてください。
例えば「最近はライバルが多くて仕事がなかなか来ないな」と感じたときは、「ライバルが多くなったのは業界が魅力的になったのだ。新しく入ってきた人と差別化できるチャンスだ」と考える習慣をつける。
逆転の発想とも似ていますが、重要なのは「マイナス」と捉えるのをやめること。
スタンフォード大学のBaba Shiv教授も「睡眠前にいい解釈をしないと記憶に定着する(つまりトラウマになりやすい)」と言っています。
トラウマがあると行動にブレーキがかかり、動けなくなります。
できれば「あれはなかったこと」と記憶から消せるよう、プラスに考える方法をいかに見つけるかが重要です。
目標を立てるとき、あえて自分が苦手なことに挑戦する方法もあります。
受験勉強では、苦手な教科に力を入れたほうが得意分野を伸ばすよりも大きな効果が得られます。これと同じです。
自分が苦手だと感じている分野は、これまで経験がないために苦手だと思っているだけかもしれません。
でも、「苦手分野だから、失敗して当たり前」と考えれば、気が楽になります。
私の場合、文章を書くことは得意だと思っていませんでした。
ところが、「半年間ブログを書くのがいい」と勧められて、だまされたと思って実践したところ、日経の連載が決まりました。
その後も執筆活動は続けています。
「1つのことをずっと続けていると飽きてしまう」という人は、あえて苦手な分野にも挑戦してみてください。
ただし、実践して本当に苦手だと感じたら、その分野はほかの人に任せたほうが効率的になるケースもあります。
ちなみに例えば、芸人が「自分は芸人で生の舞台しかできないと思っていたが、ラジオをやったらすごくよかった」というケースもあります。
この場合は「芸人として稼ぐ」という目的があり、その手段としてラジオに挑戦したことになります。
つまり、自分の不得意分野から探すのではなく、目的が決まっている段階で、それを達成する手段として不得意な分野に挑戦することも有効といえるのです。
「大変な目に遭う」ことは「自分にとって損」と感じる人が多いでしょう。
でも、「何が大変で、それをどう克服するのか」を楽しめるようになると、ビジネスの幅が一気に広がります。
「大変だ」と思われることでも断るのではなく、積極的に受けて楽しむくらいの発想がないと仕事は増えませんし、面白い仕事にも出会えません。
さらに自分で「大変」を解決できるようになると、誰かの「大変」を解決してあげられる。それは報酬につながり、複業になります。
新たな仕事に踏み出すとき、その選択が本当に正しいかどうか判断がつかないこともあります。
そんなときは、だまされたつもりで受けてみることも大切です。
悪意のある相手でなければ、どんな仕事にも意義を見つけることができます。
確信が持てなくても、一歩を踏み出してみるのです。
「本当にいいのか」と悩み続けて、一歩を踏み出せない人が少なくありませんが、それでは成長もありません。
仮にその仕事を受けたことが最終的に失敗だったとしても、「成功しない方法を見つけた」と割り切るのです。
慣れてくると、時間だけ浪費させられてお金にならないオファーは見極められるようになります。ただ、最初は判断が難しいです。
私の経験でも、何度もヒアリングをされた後に「やはり発注はしません」と言われたこともあります。
複業をするうえでは、1、2回はだまされるのもやむをえないと思います。
逆に一度もだまされたことがない人のほうが珍しいでしょう。
本業にしても複業にしても、「スキルアップのためには資格を取ったほうがいい」と勘違いする人が多くいますが、私は反対です。
資格はある程度のスキルの目安にはなりますが、資格を取りたがる人は往々にして「資格を取ること」自体が目的になってしまいます。
資格を取ることは達成感があります。
しかし、それで満足してしまい、次々と資格ばかりを取ってしまいます。
その結果、そもそも「何をしたかったのか」を見失ってしまうのです。
そうした人は「○○の資格があります」と書いておけば、仕事がたくさん来ると思っています。しかし、それは幻想です。
資格よりも「自分は何をしてきたか」という事例が大切です。しっかり結果を出してきた事実を積み重ねることです。
GoogleやAmazonが実施している検定も同じです。一定の期間は役に立つでしょうが、プラットフォームが変われば使えなくなる可能性があります。インフラが変わると別の資格が必要になることを意識しておくべきです。
事例をつくるうえでは、どんなプロジェクトを経験したかも重要ですが、そのプロジェクトを通じて何を得たか、ほかのプロジェクトにどう応用できるかが大切です。
また、本当に必要な実績は、無償でも積むべきです。
プロボノは「スキルを無償提供して社会貢献する」ことを意味する言葉ですが、報酬をもらって経験できないことはプロボノでも経験したほうがいいでしょう。
その経験が飛び地でポートフォリオを広げ、のちのち振り幅が広がる要素として効いてくるはずです。
以上のことをご参考に、ぜひみなさんも新たなキャリアを開拓し、副業を成功させてください。