※本稿はハルメクwebによる鳥居りんこ氏の寄稿を一部編集・抜粋しています。
だるさ、不眠、肩や腰のこり、めまいなどの不調を起こす「自律神経失調症」。
自身も自律神経失調症のライター・鳥居りんこさんが、精神科医の鹿目将至さんに話を伺う全3回の連載。
最終回となる今回は、自分を大切にするセルフケアの重要性とやり方をお伝えします。
『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ』(双葉社刊)という本を出版した精神科医の鹿目将至(かのめ・まさゆき)先生に聞く「コロナ禍でも負けない心身(カラダ)作り」。
最終回の今回は「セルフケアの大切さ」についてです。
年明け早々の緊急事態宣言で、心身のダメージを訴える人たちがさらに増えていると報道されています。
【鹿目医師】新型コロナウイルスの感染が広がり続けている現状なので、性別、年齢に限らずストレスフルな状態であることは確かでしょう。
既にお伝えしたように、ストレスは心身の不調に直結するので、体からのSOSは放置しないでいただきたいものです。
特に50代前後の女性は気を付けてほしいですね。
ただでさえ、この年代は仕事、家事、子育て、介護などといった「自分以外の用事」に忙殺されて無理を重ねがちです。
――先生にわかっていただけてうれしいです(笑)。確かに疲れ切って帰って来たとしても、お皿が洗われていることも、洗濯物が畳まれていることもないですものね……。
結局、自分しかやる人間がいないっていう諦めの日々の積み重ねで、アッと言う間に更年期を迎えている女性は多いと思います。
【鹿目医師】体の変わり目を迎えているこの年代の女性は、自分のことを後回しにしてしまう傾向があるので、もっと自分を労わってあげてほしいです。そのことが結果、自分にとっても、家族にとっても好循環になると思いますよ。
――確かに、心身ともに健康でなければ何もできません。。
先生は著書の中で心のセルフケアにも触れていますが、「ひざをよしよし」するというのが印象的でした。
そんなことでいいの?って、ある意味、衝撃だったんです。
【鹿目医師】落ち込んだり、不安にさいなまれたときに試してもらいたいセルフケアの方法が「ひざをよしよし」なんです。
やり方は簡単で、自分のひざ小僧を手のひらでくるむように包んで「よしよし」するだけです。
自分の手のひらで、自分を“手当て”してあげるつもりで。
これは、「スージングタッチ」と呼ばれるセルフケアの一つなんですが、「ジワ~」とぬくもりを感じるだけで、幸せホルモンであるオキシトシンが分泌されるんですよ。
傷ついた幼い自分をやさしく癒やしてあげるように、やってみてくださいね。
――自分で自分を癒やしてあげるってことがケアになるんですね?
【鹿目医師】そうなんです。日常生活は忙し過ぎて、自分自身の小さな心の傷を放置しがちなんですが、何の傷でも早めに手当てしてあげることが大事に至らない秘策でもあるんです。ほんのちょっとしたことで変わっていきますから、自分の心の「つらいよ」「寂しいよ」って小さな叫びに気が付いたときには「セルフケア」を優先してあげてくださいね。
1分もかかりませんから。
――先生がすすめる「ふわふわしたものに癒やされる」という方法も、私にはとても効果があるように思います。
自律神経失調症の症状だと思われる、胸がザワザワして落ち着かない嫌な気分になることがあるんです。
そんなときは、先生のアドバイスに従って、大きめのぬいぐるみを抱きしめているんです。少し安心するような気がします。
【鹿目医師】うんうん。そういうとき、ありますよね。ちょっとだけでも効果があったなら、よかったです。
一番いいのは、犬猫のようなペットを抱きしめることかもしれませんが、ペットがいない人はぬいぐるみでもクッションでも、お気に入りのタオルでも構いません。要はふわふわしているものに顔を埋めるだけです。
これだけでも、先ほどご紹介した幸せホルモン「オキシトシン」が分泌されます。
孤独を感じている人や、何だかよくわからない不安感にさいなまれている人には、特におすすめしています。
――そんな簡単な方法で幸せホルモンが出るなら、ありがたいことですよね。
【鹿目医師】やっぱり鳥居さん世代も忙しいんですよね。「疲れている」ってわかっていても、無理してしまいますよね……。でも、第1回目でご説明したように、体は正直で徐々に無理のきかない年代に差し掛かっていることも、頭の隅に入れておいてくださいね。
――先生には「徹夜禁止!」って忠告されたことがありますものね。「年齢を考えろ!(呆)」って(笑)。
【鹿目医師】いやいや、若々しさをいつまでも保つために「無理は禁物」って意味ですよ(笑)。
でもね、冗談抜きで、時には自分の心地よさを優先してあげてほしいって思っています。
例えば、会いたくない人には「会わない!」という選択をする勇気を持つことも大切です。
これはわがままな自己中心的な人間になれって意味ではなく、四方八方に気を使う八方美人になることを手放す。
ある意味「自分が一番大事で何が悪い!」っていう強い気持ちを持つことも、自分の心身の健康を維持するためには必要だということです。それが自分をケアするってことにつながります。
――時には「自分ファースト」でいいってことですね?
【鹿目医師】僕はそう思います。「もうつら過ぎる……」って感じたら、「自分ファースト」が足りない証拠。そのときこそ、セルフケアの出番です。先ほどの方法以外にも、自分のためだけの時間を作ってください。
ちょっと高級な入浴剤でお風呂に浸かってみる、お気に入りのハーブティーを丁寧にいれてみる、海外ドラマで思い切り泣くなんていうのも、実にいい方法です。
――実は、先生の著書の中でも「布団の上で大の字になる」が好きです。
「疲れたと思ったら、布団の上で大の字になりなさい」って、精神科医に推奨してもらえたことで救われた気がしたんです。私、これだけは得意なので(笑)。これにはどういう効果があるのでしょう?
【鹿目医師】「大の字リラックス」はズバリ「脱力効果」です。
人間って何かの作業をしているときは体のどこかが緊張している状態なんですね。
ストレスを感じれば感じるほど、体は硬直していきます。糸がずっと張りつめた状態になっているので、それを意識的に緩めてあげるってイメージです。
布団の上で仰向けに寝っ転がって、足先から徐々に脱力していき、腰まわり、胸、肩、喉、奥歯の噛みしめ、口元、目、眉間のしわまで順番に力を抜いていってください。
――実際にやってみると、体って変に緊張しているんだなってわかります。
【鹿目医師】そうなんですよ。意外とカチコチですよね。でも、これを実行するだけで、血液を全身に巡らせ、同時に筋肉、内臓、神経を休めやすくするので、全身を労わる効果が期待できます。眠りにつく前に布団の中でやってみてくださいね。
――3回シリーズに渡って、先生には50代女性が気を付けるべきことについてお話いただきました。最後に私たち50代女性にエールをいただけますか?
【鹿目医師】このコロナの時代、まだまだ大変な暮らしが続きそうです。50代女性は人生の中でも大きな節目を迎える年代でもあるので、ストレスフルになることがむしろ自然です。
疲れを感じたら、セルフケアをしながら体を労わってあげてくださいね。
もちろん、それでもなかなか回復しないという方は、僕たちメンタルケアの専門家に相談してみてください。僕たちは、あなたが、再び元気を復活するために存在しています。いつだって「一人ではない」ということを思い出しながら、ご一緒に、このコロナ禍を生きていきましょう。
――そうですよね。同世代のみなさん、弱音を吐きつつも、折れずにご一緒に生きていきましょう。先生、たくさんのアドバイスをありがとうございました。
鹿目将至(かのめ・まさゆき) さんのプロフィール
1989年、福島県郡山市生まれ。日本医科大学卒業。現在、愛知県豊橋市の松崎病院 豊橋こころのケアセンター勤務。2020年4月にプレジデントオンラインで発信した「激増中『コロナ鬱』を避けるための5つの予防法~精神科患者の9割以上がコロナ案件」が大反響を呼ぶ。
「1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ」 (双葉社刊) 1100円+税
コロナ禍で、心身の不調を抱える人が増加する日本。特に深刻なのは、「1日中家にこもって、誰とも言葉を交わさない人」のうつ。精神科医の著者が自ら取り組む、簡単かつお金のかからない効果絶大なテクニックの数々を紹介する一冊。