本稿は、ダイヤモンド社書籍編集局によるインタビュー及び寄稿を一部編集・抜粋しています。
「人の目が気になって本音で話せない」「緊張のあまり吐き気が止まらない」「小さな失敗でも『人生終わった』と落ち込んでしまう」、こんなメンタル激よわの私がハマって一気読みしてしまった『刑事メンタル』。劇薬のようにエネルギッシュな一冊だ。
多くの人が持つメンタルの悩みを刑事で培った技術で解決してくれる異色の本で、60のメンタル強化術をユーモアあるイラストとともに見開きでサクサク読める。確かに、刑事の仕事は大変だ。暴力団事務所の突入、犯人確保の瞬間、長時間にわたる張り込み……おそらく一般の人が一生かけても味わうことのない、「緊張」や「プレッシャー」、「ストレス」は私たちの想像で測ることはできないだろう。
そんな刑事生活20年の元ベテラン警部は、どのようにして、鋼のメンタルを手に入れたのか。1日10秒でできる「心を強くする習慣術」を、著者の森透匡さんに聞いてみた。(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)
──殺人事件の犯人を追いかけたり、張り込みをしたり、銃を持った反社会的勢力と戦ったり……。刑事のお仕事は、絶体絶命のピンチの連続。想像しただけでもまいってしまいますが、森さんはもともとメンタルが強かったんですか? 警察には27年在籍、そのうち刑事としては20年も働かれていたんですよね。
森 透匡(以下、森):ドラマや映画のちょっと偉そうな雰囲気から、刑事ってメンタルが強そうなイメージがあるでしょう? でも、刑事として生まれてくる人はいないし、みんながみんな最初から強靭な精神力を持っているわけじゃありません。僕自身も、新人のころはそこまでメンタル強くありませんでしたよ。やっぱり取り調べで舐められますしね。前科20犯の犯人の取り調べをして、「このヒヨッコが!」「俺はお前が生きてる時間以上に刑務所入ってんだぞ!」と言われたな。
──そんなの、私だったら怖くなって何も話せなくなりそうです……。
森:いやー、でもそこで落ち込んだところを見せちゃダメなので、なんとか自分を奮い立たせて仕事していました。そうやって現場で経験を重ねるうちに、自然とメンタルが強くなっていったんです。
森 透匡(もり・ゆきまさ)プロフィール
一般社団法人日本刑事技術協会 代表理事 元刑事の人事コンサルタント。警察在籍27年のうち、刑事生活は20年。23歳で巡査部長に昇任し、知能経済犯担当刑事に抜擢。異例のスピードで同期生トップとなる35歳で警部に昇任。多数の凶悪事件、巨悪事件の捜査に従事し、冷静沈着な判断と指揮により事件解決に貢献した元敏腕刑事。また、東日本大震災では広域緊急援助隊の中隊長として福島県に派遣され、福島第一原子力発電所の水素爆発に遭遇しつつも命の危険を顧みず部隊の指揮を執った経験もある。心が折れそうな数々の現場経験から強靭な精神力を培う。現在は大手企業、経営者団体など毎年全国180ヵ所以上で講演・企業研修を行い、これまで7万人以上が聴講した。2020年には大手講師派遣エージェントより全国1万人以上の講師の中から人気No.1講師に選出される。日本テレビ系「月曜から夜ふかし」、読売新聞、日経新聞などメディアへの出演、掲載も多数。
──メンタルが強くなった要因として、思い当たるものはありますか?
森:これまでの経験を掘り下げて洗い出してみると、僕のなかに起きた小さな「変化」の積み重ねが、メンタルを強くするために役立ってくれていたのだと。
──「変化」ですか。
森:たとえば筋肉をつけたいと思ったとき、ジムに通って筋トレしていくうちに、少しずつ鍛えられていくでしょう?「筋肉をつけたい!」と思ったからといって、意識したその瞬間からいきなり筋肉ムキムキになるわけではないじゃないですか。それと同じで、「急にメンタルが強い自分になる」っていうのは不可能なわけです。ならば、まず現状に「変化」を起こさなければ、メンタルは強くならないんですよね。
──なるほど。はじめは些細なことだったとしても、「変化」の積み重ねで徐々に強靭なメンタルが手に入る、ということでしょうか?
森:そうですね。
──ならば、身近なところだと、どこから変えたらいいでしょう? 私もすごくメンタルが弱いので、すぐにできることだとありがたいのですが……。
森:「言葉」「行動」「習慣」の3つの視点で考えることです。言葉遣いやちょっとした行動、いつも何気なく行っている習慣などのうち、まずは自分がやりやすいものでいい。「これならできそう!」と思えるような小さなことから変化を起こしていって、少しずつハードルをあげていくのがいいんじゃないでしょうか。
「言葉」であれば、言葉遣いや発声、話し方でずいぶん印象は変わりますよね。女性の刑事や若い刑事だと犯人になめられてしまうことがあるので、言葉遣いをちょっと強めにするなど、見せ方を工夫することもよくあるんです。「大きな声で話す」だけでも印象は全然違います。自信があるように見えるんですよね。
──日常生活でできることでいいんですね。
森:「ヤクザ担当刑事は、だんだんヤクザに似てくる」というのもよくあることです。パンチパーマでごつい指輪をしていて、ヒゲが生えていて……となると、見た目は本当にヤクザそのもの。格好から入って、ある意味ハッタリをかましているわけです。
僕も、以前ヤクザの事務所に行ったときは緊張しましたし、ビビりました。でもそれを相手に見せるわけにはいかないので、あえて横柄な態度をとるように行動を変えて、わかったような口の聞き方をするように言葉遣いを変えてみたんです。
最初はそれくらいでいいと思うんですよ。べつにいまからバンジージャンプをしろって言ってるわけじゃない。いまメンタルがどん底まで落ちている人にとって、大きな変化は刺激が強すぎると思うので、「ここならギリ行ける!」というラインから(の変化)でいい。
──メンタルがどん底の状態で、「何もやる気が起きない」という人も多いんじゃないかと思います。たとえば、仕事で大失敗したあと「自分はなんてダメな人間なんだ……」と自己嫌悪に陥ってなかなかやる気が復活しない、というケースもよくありますよね。そんな状態でもできるメンタルトレーニング法はありますか?
森:メンタルが弱っているときと、あえて逆のことをしてみるというのはどうでしょう。たとえば、犯罪者って、メンタル弱っている人も多いんですよ。手錠をかけられて背筋が曲がって、下を向いて……っていう人、テレビで観たことありませんか? 私は刑事として、相手の心理を読むために非言語コミュニケーションの研究もしていました。それでわかったのは、人間はやましいことがあって「顔を見せられない」という意識があるとつい下を向いて歩いてしまう、ということ。だったら、あえてその逆をやってみるといい。
・顔が曇ってしまうのなら笑う
・自信がないなら顔を上に向ける
・ボソボソ話す癖があるなら、発声のボリュームを大きくする
そうやって自分に変化を起こすと、少しずつ周りの反応も変わってくる。「あいつ、なんだか楽しそうだな」とポジティブな印象を与えられると、結果的に周りの人も笑顔で元気に話しかけてくれるようになる。
はじめは「そんな明るい気分になれないよ」と思うかもしれない。でも、無理矢理にでも「言葉」「行動」「習慣」で自分の見せ方を変えるようにしていれば、あとからメンタルが見た目に追いついてくるんですよ。
だから、いまつらい状況が続いていて、誰とも会いたくない! みたいに落ち込んでしまっている人であれば、
・出勤前、鏡の前に立って口角を上げ、笑顔をつくる
・つねに背筋をのばし、上を向いて歩く
・コンビニで買い物したとき、店員さんに「ありがとうございます!」と大きな声でお礼を言う
など、これくらいの小さな変化からスタートしてみましょう。これなら、1日10秒でもできますよね。
もし自信をもっともっとつけたいと思うなら、背伸びした目標を立てて小さな成功体験を積み重ねていく、というのもおすすめ。「今日は3人の人に『おはよう』とあいさつする」などの目標を立てて、それを毎日少しずつクリアしていく。そうすると、自分の自信になり、メンタルも保たれてくるでしょう。
「まさかこんなことが起きるとは!?」という「まさか」は、我々の長い人生の中で何度か起こる。
最近では世界を変えた新型コロナウイルスがいい例だろう。
私も事業活動に大きな影響を受けた。しかし、飲食業、観光業などもっともっと大変な思いをされている方も多いと思う。
こんなとき、自分のメンタルをどうやってコントロールするかが試される。
たとえば、経営者は社員を守らなければならない。簡単に会社をたたむわけにもいかない。政府の要請はわかるが、時短営業すればするほど赤字になるし……と判断を求められる。資金繰りにも困る。
会社員だって会社の業績が悪いとこれからどうなるかわからない。家族を養う責任もある。ボーナスカット、給料削減で住宅費、教育費の支払いにも困る。転職しようか、副業しようか悩むだろう。
こんなとき、当事者の考え方はさまざまだ。
「ちくしょう、もしかしたら会社がつぶれて職を失うかもしれない。生活費も底をつきそうだ。もうダメだ、生きていけないかもしれない」と、ネガティブに考える人がいる。
一方で「ここで負けられない。踏ん張りどころだ。諦めない。なんとかなる。頑張るしかない。できることを考えてコツコツやるしかない」とポジティブに考える人もいる。
どちらに明るい未来が待っているかは明白だ。コロナ禍という起こった出来事は皆同じ。しかし、考え方によって人生は大きく左右される。
誰しも悲観的な出来事があるとマイナスに捉えがちだ。しかしあえてプラスに、前向きに捉えることもできる。そして、それは強いメンタルがあってこそかもしれない。
私は長い間、刑事として勤務し、厳しい現場で何度も心が折れそうになった。強いメンタルを保てたのはたくさんの厳しい現場を踏んできたからだ。自然とメンタルは鍛えられた。そして、刑事としての使命感がそれをさらに強化してくれた。
とにかく前向きに、全力で頑張ってきた結果、今がある。
そして、私がこの本で伝えたいことは「何事も諦めたら終わり」ということだ。
困ったときに前に進むための手段・方法は必ず見つかるし、今の状況を改善できる可能性は必ずある。だから、決して諦めないでほしい。明けない夜はないのだ。
この本がメンタルが弱っているすべての方の心のよりどころになり、前へ進むきっかけになるとすごく嬉しい。
負けるな、諦めるな、キミはまだやれる!
心から応援している。