SNS含めソーシャルメディアを見ない・使わない日はないと言っても過言ではない現代社会。改めて、自分の生活に、ひいては心にどう影響しているかと言われても、あまりに日常の風景になりすぎていて答えることは難しいように思います。
でも、なんの影響もされていないはずはない! そこで、米Gizmodo編集部が専門家に質問をぶつけてみました。
※本稿はGIZMODOによる寄稿を一部再編集、抜粋しています。
Chris Barry氏:ワシントン州大学 心理学教授
若者の自己認識や、ソーシャルメディアとのエンゲージメントについての研究が専門。
ソーシャルメディアにおいて、原因と結果を見極めるのはなかなか難しいことです。ソーシャルメディアがメンタルヘルスに影響を与えているかもしれません。一方で、ストレスや孤独を抱えている人がソーシャルメディアを多用しがちなのかもしれません。卵が先か、鶏が先かという話になんですね。
リサーチで一貫して言われるのは、2つのネガティブ要素。まず1つは、ソーシャルメディアは眠りにネガティブに作用するということ。いつまでもフィードを眺めて夜更かししたり、ソーシャルメディア経由で夜中に誰かに連絡したり、真夜中に通知音がなったりなど。
もう1つは、ソーシャルメディアで比較して自己嫌悪に陥ること。人のポストを見て、自分に自信がもてなくなったり、現状に不満を抱いたり、ですね。
私が若者たちと取り組んだ研究では、ソーシャルメディアとのエンゲージ度(チェックの頻度など)は、不安や鬱との関係が見えました。特に、何かを見逃すことを非常に恐れる10代の若者でそれは顕著でした。何か見逃していないか、とても過敏になっているんです。
Chris Barry氏:ロードアイランド州ブラウン大学 精神医学&人間行動学学教授
若者のメンタルヘルスや発達におけるソーシャルメディアの役割の研究が専門。
研究者たちはこの質問の答えを探そうと、長年、ソーシャルメディアの使用時間とメンタルヘルスの関係を探ってきました。しかし、このやり方(使用時間を軸にした調査)だと、非常に重要な2つのことが疎かになってしまうと私は考えます。
まず、ソーシャルメディアは1つではないということ。ソーシャルメディアでの人の行動、体験の幅は非常に多様で広いものです。心にとってネガティブなものもあります、ポジティブなものもあります。例えば、ネットいじめはとくに傷つく行為でネガティブ。友達や家族の結びつきが強まるのはポジティブ。
次に、みんなそれぞれ違うよねということ。同じソーシャルメディアの利用でも、みんなそれぞれ異なる強さ、弱さがあります。ある人にとってのソーシャルメディアのネガティブさは、別のある人にとってはポジティブかもしれないのです。
Mizuko Ito氏:カリフォルニア大学アーバイン校 情報&コンピュータサイエンス教授
子ども・若者のメディア・コミュニケーションへの関わり方の変化の研究が専門。
当校のConnected Learning Labでは、ソーシャルメディアが若者に与えるいい影響、悪い影響そのどちらも研究をしています。
ポジティブな面として、若者の多くはソーシャルメディアやネットワーク系ゲームを、友達や家族、愛する人とつながるためのライフラインだと考えているということ。特に、学校やスポーツが制限された世界的パンデミックの中で、ソーシャルメディアは非常に重要な役割となっています。
また、若者にとってソーシャルメディアは、興味やアイデンティティを共有する人とつながる手段でもあります。社会的に無視されがちなLGBTQ+コミュニティや、人種・宗教的マイノリティにとっては、ソーシャルメディは確かにライフラインだと言えるでしょう。ネガティブな面は、これは利用頻度にもよりますが、ネットハラスメントの可能性や、不健康な体型を普通・理想と思い込んでしまうことなどがあります。
ソーシャルメディアというものが実に多様に使われる中、若者のメンタルヘルスへの影響についてソーシャルメディアを切り取って考えることは、果たしてできるのかどうか。これは非常に多くの研究者がディスカッションしていることです。一部のソーシャルメディアとメンタルヘルスにおける関係性の問題点を指摘する研究もありますが、多くの研究は若者と様々なショーシャルメディアにおける共通した関係性は見つけられずにいます。
つまり、現時点で言えることがあるとしたら、それはソーシャルメディアはオフライン(現実)の社会活動と同じように、メンタルヘルスにおいて良くも悪くも作用しているということ。どんなコンテンツなのか、どんな関係なのか、心を健やかに過ごすには常に気を配っておく必要がありますね。
Keith Hampton氏:ミシガン州大学 メディア&情報学教授
20年以上にわたって新たなメディアとコミュニティを研究。
これは型にはめて考えられる問題ではなく、残念ながら科学の力不足を認めざるをえません。時に、研究者が統計的に大きな小さい発見をすることはありますが、鬱や不安症などのメンタルヘルス問題においては、これは現実的ではありません。
大学生を被験者として、ソーシャルメディア利用の問題点を見つけた研究もあります。脳波や血液の流れをスキャンしたちょっと嘘くさい研究もあります。「ソーシャルメディアを使っているせいで問題を抱えていますか?」と、いっそ真正面から質問したアンケート調査もあるでしょう。しかし、そのどれも「ソーシャルメディア中毒」の可能性程度の意味しかないのです。現実的なソーシャルメディアとメンタルヘルスの関係にはアプローチすることはできません。
ソーシャルメディは他のコミュニケーションとは異なるので、それが不安材料になっているのかもしれません。ソーシャルメディアは、友達や家族の生活の一部をハイライトとして提供します。これが、メンタルヘルスに多様に作用します。知人がリストラされた、知り合いの子どもが病気になったなどを知ってしまうことで、人々のストレスは増加します。メンタルに悩む人とソーシャルメディアを介して繋がることで、不安や鬱が伝染することもあるでしょう。このような部分(コンテンツ)を増加させてしまうアルゴリズムは、非常に問題があると考えます。幸い、その逆もあり、ハッピーなイベントをソーシャルメディアで共有することで、心にポジティブに作用することもあります。
他のコミュニケーション方法と並べて調査すると、ソーシャルメディアの利用はメンタルヘルスが悪化しないよう保護するという面も見られます。リアルで人に会うことの代わりにはなりませんが、連絡が途切れていた人とコンスタントに連絡がとりやすいという利点はあります。ソーシャルメディアを利用することで、より社会的サポートを受けられ、かつ心理的ストレスは減ったという報告もあります。