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「ワクチン打った?」に私は気が重くなる…接種が生んだ分断

ワクチン

さまざまな理由で打たない人もいるのに、あたかも打つことが前提の空気感があります。ネット社会では、ある情報に同意見の人が集まる「エコーチェンバー現象」が起きやすく、そこで信じた情報は確信に変わり、時に反対意見を敵視します。これはワクチンを打つ派、打たない派、双方に言えるといいます。「科学的なデータを基に国が説得力のある情報を出さない限り、意見の分断は続くだろう」と、「正しい情報」の必要性を説いています。 

打つ派、打たない派、反対意見を敵視する現象について

「本当に必要ですか? 子どもへのワクチン」。9月30日、大分県の新聞に広告が載りました。臼杵市の自営業男性(43)が呼び掛け、掲載費約115万円の半分は賛同者の寄付で賄いました。

「接種をどんどん進めて、早く普通の生活に戻ってほしい」。そんな考えが揺らいだのは5月末。政府が対象を「12歳以上」に引き下げてから。  

中長期的な安全性は? 副反応は? 情報を探すうち、厚生労働省が発表する「接種後の死者数」に目が止まりました。因果関係は認められていませんが、9月12日時点で1190人に上ります。「そもそも未成年者の重症例は少ない。子どもに打たせるべきではないのでは…」

市、教育委員会、PTA連合会を回り、市民に不安要素を伝えるべきだと訴えました。しかし回答は「正しい情報を見て判断してほしい」。 

大分県内でも「12歳以上」への新型コロナウイルスワクチン接種が進んでいた9月、臼杵市の男性はチラシを手に中学校の校門に立ちました。子どもへの接種に疑問を投げ掛けるためです。 

効果だけでなくリスクも伝えるべきだと悩んだ末の行動。ですが、思いが募るほど友人は離れ、周囲の目を気にして父親は嫌悪感を示すようになったそう。 

「ワクチンの安全性に重大な懸念は認められない」と強調する厚生労働省。接種後の千人を超す死者数について担当者は「注目度が高い医薬品では医療機関からの報告が増える傾向にある」、インフルエンザワクチンとの死者数の開きは「異なる医薬品を単純に比較できない」と解説します。「これが『正しい情報』なのか」。男性は納得できないでいるそうです。

東京女子大の橋元良明教授(情報社会心理学)によると、ネット社会では、ある情報に同意見の人が集まる「エコーチェンバー現象」が起きやすいとのこと。そこで信じた情報は確信に変わり、時に反対意見を敵視します。これは打つ派、打たない派、双方に言えるといいます。橋元氏は「科学的なデータを基に国が説得力のある情報を出さない限り、意見の分断は続くだろう」と、「正しい情報」の必要性を説きます。 

それが不十分な社会で、何が起きたのでしょうか。 

「1日100万回」―。ワクチン接種率の向上に懸命な菅義偉前首相が掲げた目標に向かい、各自治体は競うように接種を急いでいました。

リスクを懸念する長崎市の自営業女性(45)は、あいさつのように交わされる「ワクチン打った?」に気が重くなるのだとか。さまざまな理由で打たない人もいるのに、あたかも打つことが前提の空気感。加えて、政府は接種と行動緩和を引き換える「ワクチン・検査パッケージ」を検討し、社会もそこに向かっています。「当初は差別につながると否定していなかったっけ…」と当惑します。国際医療福祉大の和田耕治教授(公衆衛生学)は、ワクチンは個人が納得した上で接種するものだとし「国は安全性や効果について丁寧な説明を尽くすべきだ」と言います。