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「リモートワーク疲れ」「テレワーク疲れ」に慣れてきたと思ったら要注意

「リモートワーク疲れ」「テレワーク疲れ」に慣れてきたと思ったら要注意

※本稿は、Yahoo!ニュースに掲載中の西多昌規氏による寄稿を一部編集・抜粋しています。

9月1日に、デジタル改革の司令塔となるデジタル庁が発足した。

FAXや捺印など、コロナ禍で露呈した日本の非効率的なシステムの刷新、マイナンバー制度を活用した行政サービスの向上など、国民からの期待は大きい。

テレワーク・リモートワークの環境整備と推進も、目標として掲げられている。

テレワーク・リモートワークは、通勤の負担が減る、嫌な上司や同僚との人間関係を回避できる、家族との時間が増えるなど、メリットがかなりある。

デジタル庁も創設されたこともあるが、これまでテレワーク・リモートワークに後ろ向きだった企業も、導入を真剣に考えざるをえなくなっている。

2020年9月発表の東京都産業労働局・テレワーク導入実態調査では、従業員30名以上の1万社への調査を行い、テレワーク、リモートワークを「導入している」57.8%、「今後予定あり」16.4%となっており、今後も導入は進んでいくだろう。

一方で、リアル出勤時代には経験したことのない、デメリットもはっきりしてきた。
仕事や人間関係の問題もあるが、テレワーク・リモートワークによる心身への負担である。

ジワジワと忍び寄る「リモート疲れ」や「テレワーク疲れ」

メンタルクリニックで診療を行っていて感じるのは、テレワーク・リモートワークによって恩恵を被っている人もいるのだが、明らかに心身の調子を崩している人もいることだ。

不安で作業に手がつかない、モチベーションが上がらない、生活リズムがどうしても乱れてしまう、酒が増えて太ってしまった、虐待ほどではないが家族関係がいっそう悪くなってしまった……昨年からも見られる傾向ではあるが、昨年は変化が明らかだったので、当事者もリモート疲れが原因であることを認識していた。

しかし今年は、慣れのせいか、当事者にも気づきにくくなっている。

「しかたがない」「以前のようには戻れない」などと言いつつ、肥満や検査値悪化などは、進行しているケースが多い。より潜在化しているように思える。

オン・オフのない自宅でのリモートワークで過重労働になってしまい、休職の診断書を書いたこともある。

ほとんど家に居るにもかかわらず休職とは、患者もわたしも不思議な感じがしたのを覚えている。

コロナ禍が始まって1年半経ちマンネリ化してきたところで、「リモート疲れ」「テレワーク疲れ」への対処の重要性を、改めて強調しておきたいと思う。

リモート疲れ・テレワーク疲れを簡潔にまとめると、

・オンライン会議・講義疲れ

・コミュニケーションが上手く取れない

・わからないことが訊けず、仕事が捗らない

・家族を気にしていなければならない

・オン・オフの区別がつかず、起きている間ずっと仕事になってしまう

・運動不足、アルコールの増加、腰痛や眼精疲労などの不調

たとえばオンライン会議、俗にいう「Zoom疲れ」も、詳しく分析すると、いくつかの要素に分けることが可能だ。

たくさんの出席者の画像による認知負荷、音声のズレによるイライラ、目や腰への負担など多岐にわたる [1]。

またコミュニケーションでは、表情や仕草など非言語的な要素がかなり重要であり、この影響でオンラインコミュニケーション苦手という人もいれば、かえって気楽という人もいる。

アメリカのビジネス、教育現場では、オンライン会議や講義中も、ビデオを一定時間オフにすることが推奨され始めているようだ[2]。

オンライン中心の作業が人体にどのような影響を与えるかは、実践、研究ともにまだ日が浅く、これから発展が期待される分野だ。

リモート疲れやテレワーク疲れに慣れてきたのは勘違いだったりする

問題は、「リモート疲れ」「テレワーク疲れ」への「慣れ」である。

先ほど書いた、うつや運動不足、肥満も、「コロナなので仕方がない」と諦めてしまっている人も多いのではないだろうか。

また、テレワーク、リモートワークが「いつまでも続くものではないだろう」というような、中途半端な気持ちも影響しているのかもしれない。

リモート生活やテレワークへの違和感と誤った生活習慣を、このような中途半端な気持ちでダラダラ続けていれば、知らず知らずのうちに、健康へのダメージが積み重なっていく可能性は十分に考えられる

怖いのは、自分では気がつかない、あるいは軽くみてしまっているところである。

2019年ないし2020年初めと比べて、自分の気力と体力、体重や検査データが維持できているか、もう一度比較してみよう。

悪化していても、「コロナだからしょうがない」と、言い訳してしまってはいないだろうか。

「フェイクな休憩」で休んだと思い込んでしまうことも

たとえば、仕事の間の休憩として、作業していたパソコンでそのままネットサーフィンやゲームを楽しんでいる人もいるかもしれない。

精神的にはリラックスできているので、当人は休憩と思っているのだろう。

しかし、画面を追う眼(ひいては脳)と、座りっぱなしの腰には、明らかに負担がかかっている。

しかし当人は、気分転換ができて休憩できた気になっている。

これを、わたしは「フェイク休憩」と呼んでいるが、このネットサーフィンやスマホでゲームなどは望ましい休憩の取り方ではない

眼の疲れも、気づかないうちにダメージを及ぼしている疲れの一つだ。

PCないしスマホ画面の凝視で、まばたきは普段の半分以下になり、結膜の乾燥だけでなく、深刻な眼精疲労を生じさせる可能性がある。

眼科学で推奨される休憩の時間間隔を、ご存じだろうか?(正解は20分)

「スマホ脳」(新潮新書)を読んでスマホ依存の怖さはわかっているが、具体的にどうしたらいいかわからないという質問も多い。

こういった、リモート・オンライン・デジタルならではの疲れにも、たとえば腕時計をする、スマホはカバンに入れる、といった工夫でも、スマホのスクリーンタイムはかなり減らせる。

コロナおよびコロナ禍はこれからどうなるかわからないが、「リモート疲れ」「テレワーク疲れ」を「慣れてきたので大丈夫」「どうしようもない」「コロナが終わればなんとかなる」と思っているうちに、時間は過ぎていき、心身への負荷はたまっていく。

今からでも遅くはなく、早め早めの生活改善が大切である。

*本サイトの内容は、『リモート疲れとストレスを癒す「休む技術」』(大和書房)の一部から抜粋し、著者が編集を加えたものである。

Bailenson JN. Nonverbal overload: A theoretical argument for the causes of Zoom fatigue. Technology, Mind, and Behavior, 1(3), 2021.

Fosslien L and Duffy MW. How to Combat Zoom Fatigue. Harvard Business Review. Apr 29, 2020.

著者プロフィール

西多昌規

精神科医 / 早稲田大学・准教授

早稲田大学スポーツ科学学術院・准教授、早稲田大学睡眠研究所・所長。東京医科歯科大学医学部卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学、スタンフォード大学の客員研究員などを経て、現職。精神科専門医、日本睡眠学会専門医など。専門は睡眠、身体運動とメンタルヘルス。著書に、「リモート疲れとストレスを癒す『休む技術』」(大和書房)、「自分の『異常性』に気づかない人たち」(草思社)など多数。