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「インテグリティ」を培うためには「仕事を忘れる」「学び直し」が必要

眼鏡と本

これからのビジネスパーソン、プロフェッショナルやリーダーになろうという人たちにとっては、インテグリティ(高潔さ、誠実さ、真摯であること)を培い、インテグリティを自分自身の物差しにすることがより重要になる。

『INTEGRITY インテグリティ――正しく、美しい意思決定ができるリーダーの「自分軸」のつくり方』を上梓した岸田 雅裕(きしだ まさひろ)氏が、インテグリティを培うための「学び直す力」「学び方を学ぶ」ための勉強法について説く。

※本稿は東洋経済オンラインへの寄稿を一部編集・抜粋しています。

大事なのは「学び直す力」と「学び方を学ぶ」こと

ここでは、インテグリティ(高潔さ、誠実さ、真摯であること)の培い方として、つねに学び続けることの大切さと、その具体的な方法について述べてみたいと思います。

今、世の中は急速にデジタル化が進んでいます。おそらくこれからの時代は、現在の多くの仕事が人工知能(AI)に取って代わられるような時代になるでしょう。私たちは、自分自身の存在意義を変えていかなくてはなりません。

テクノロジーに使われる側になってしまったら、そのときはもうお払い箱です。そうなりたくなければ、再教育的に自分を変革するしかありません。自分自身の存在意義を変えるためには、明日、来年と、どのくらい自分を変えておくかを今すぐ決めるくらいの決意が必要です。

大事なのは、つねに学び直す力をつけることと、そして学び方を学び、マスターすることです。

それではいったい何を学べばいいのか。語学と歴史と、できれば経済学テクノロジーのアップデートを怠らないようにすべきだと思います。

テクノロジーというのは、なにも最先端のプログラミングができなくてもいい。ただしデジタル化で世の中がどう変わるかということは、学び直していかなければいけない。

英語は絶対に重要です。たとえばフィナンシャル・タイムズ、『エコノミスト』などの新聞や雑誌、すぐに翻訳書が出版されるようなベストセラーの経営書などは、ダイレクトに英語で読んだほうが早い。原典が英語で書かれているものは英語で読んだほうがいい。時間がかかってしまうけれど、慣れると早く意味がつかめるようになると思います。

社会人が学ぶときの代表的な手段が読書です。つねに学び直すためには、読書の習慣をつけることは必須でしょう。

コンサルタントがまさにそうなのですが、仕事によっては、若い人であっても、自分よりも20歳くらい年上の人ともまともな話ができなくてはなりません。読書によって知的雑談力のベースをつくっておくことが必要です。

そこで重要になるのが「何を読むか」ですが、私は自分と同じ意見の本や、自説を補強する本ばかりを読むよりも、自分とは異なる意見が書かれている本を読むべきだと考えます。もちろん反対の意見を目にするのはあまり愉快ではありませんが、不愉快な状況での頭の中の議論というのは、大きな学びになるものです。

私自身は、ビジネス書の類いや世の中で売れている本は、部屋に積み上がっているものの、あまり読まなくなりました。なぜならそこに書いてあるようなことはプロジェクトの中で実際に扱うことが多い。本を読まずともリアルな実例で学べるからです。もっと若いときは実務に携わる必要があったので、そういうものもよく読みましたが。

いろいろな本を読むけれど、そこに何かポリシーがあったほうがいい。たとえば自分なりにテーマを決めて、それを研究してみる。私のライフワークの1つは、村上春樹さんと大江健三郎さんの研究です。この2人の作家の作品は何回も読み返していますが、つねに新しい発見があります。

作品が発表された年代順にもう一度読む。小説だけでなくエッセイや対談も読む。村上春樹さんは海外小説の翻訳も数多く手がけていますから、その翻訳はもちろん、原著も読む。さらには村上春樹研究の本も読む。

大江健三郎さんは高校から大学のころにかけて熱中し、その後遠ざかっていましたが、最近また最初から読み始めています。こんなことをしていると、いくら時間があっても足りませんが、こんなふうに本を読むのは、過去を整理し、未来を考えるということにつながっていきます。

経営者の中には、塩野七生さんや司馬遼太郎さんを愛読書に挙げる人が多く、私はそれらも読みます。とくに塩野七生さんの本は西洋の歴史の勉強にもなります。やはりグローバル企業では、西洋の歴史やキリスト教の考え方を知らない限り、きっちりした仕事はできません。西洋を理解したいと思ったら、塩野七生さんがライフワークとしているギリシャやローマ、そしてキリスト教の世界を理解していないと、そこから発展する文化的背景が理解できない。欧米人のものの見方や発想を理解するためにも、教養としてこれらの本を読んでおくことをお勧めします。

仕事以外の趣味を持つ

私が50歳になる前くらいに、セゾングループでパルコの副社長になった森川茂治さんと話をしていて、こんなことを言われたことがあります。「60歳ぐらいで一線を退いたあとに、何か趣味でもやろうと思ってやってもうまくいかないよ。50歳になったら1年に1つずつ、一生続けられる趣味にトライしたほうがいい」。

1年に1つ、自分で掘り下げられそうなものを取り上げて、とりあえずやってみる。1年目でけっこうやれるのであれば、それに続けて、2つ目を足してみる。リタイアまでに10年猶予があれば、3つくらいは、本当にこれが趣味だと人に言えるようなもの、その世界でちゃんと仲間と交われるようなものができている。逆に言えば、そういうふうにしておかないと、60になって趣味を始めますと言っても、お仲間は誰もいないよと言われました

では具体的には何から始めるかと言えば、20代のころにかじっていたことがいい。若いころはお金もないし、時間もないから、そのままにしているものがある。そういうものから始めたほうが、とっつきがいいと教えてくれました。私が大型バイクに乗り始めたのは、こういう理由もあるのです。

そういう意味では、20代、30代のうちに、何か仕事以外のことに触り始めておいたほうがいいと思います。おそらく若いときは、本当に時間もお金もないから、なかなか突き詰められない。突き詰めるというレベルまで到達するには、お金がないとできないことも多いものです。

仕事ももちろん大事ですが、ぜひ本格的に人に誇れるようなレベルの趣味を持ってほしいと思います。趣味に真剣に打ち込むことは、インテグリティを養ってくれるのです。

「仕事を忘れる時間」を持つことも大切

趣味に実益を求めすぎるのもよくないと思いますが、仕事以外にも夢中になれることがあると、自分を救ってくれます。基本的に、仕事というのはうまくいかないことが多いものです。傍目からは順調に見える人でも、問題を抱えていたり、失敗して悩んでいたり、葛藤を抱えていたりする。だから人生で仕事しかしていなかったら、精神を病みかねません。

私がバイクに乗っていたのは、2時間か3時間、バイクに乗っていると、その間だけは仕事のことが頭から抜けているからです。もちろん家に戻ってくると「ああ、まだあのことがあったんだ」と思い出すけれど、たとえ数時間だったとしても、完全仕事を忘れたということが、心身の健康を保つにはいいのです。

村上春樹さんの本を読むこともそうです。彼が描くのは、表面的には現実とは違う世界であることが多い。その中にひたりきって出てくると、2時間前、3時間前に行き詰まっていた自分とは違う自分があるのです。

仕事をしていたら、悩むのは当然です。それは人間関係かもしれない。相手が理不尽なことを言ってくるかもしれない。自分の能力が及ばず、失敗したりミスをしたりすることもある。だけれども、何時間もそのことを考えていても仕方がありません。とくに土日は、月曜日にならないと何もできないのだから、考えるだけ無駄です。だからそのときは違うことをやったほうがいい。

人間の頭は面白いもので、ずっと悩んでいたら、どんどん自分を精神的に追い込む方向に考えてしまうけれど、たとえ2時間でも違うことを考えることができれば、改めて健全な判断ができる。自分自身を離れて俯瞰すると、悩んでいた問題も意外に大した問題ではないと思えるものです。

また、趣味を通じて、仕事関係以外のコミュニティーが持てるというのもすばらしいことです。仕事に直接関係ない人たちが公私にわたって助けてくれることは、けっこうあります。

趣味の仲間が、仕事で助言をくれたり、誰かを紹介してくれたりということもあるけれど、やはりその人たちと過ごすことによって自分がリフレッシュすることの価値は計りしれません。それに仕事関係の人とはまったく違うものの考え方に触れることは、人間の幅を広げてくれる。「ああ、そういう発想があるんだな」という発見が、自分の仕事の考え、アイデアに戻ってくることは少なくありません

歴史を知って、歴史観を持つことが重要

先ほど、これからは語学と歴史を学ぶ必要があると言いましたが、なぜ歴史を学ぶべきかと言えば、過去を知ることで未来が予測できるようになるからです。

「歴史は繰り返す」という言葉があります。実際に繰り返すわけではありませんが、人間の営みは一定の幅の中での振り子のようなところもあります。だから歴史を知っていると、それを現在に当てはめることで、ある程度先行きを予測できるようになる。

それには歴史の大きな流れをつかむことです。1つひとつの小さな出来事はあまり気にしなくていい。それより長期的に続く大きな波を意識することです。今は先が読めない時代ですから、そういう「歴史観」というか「大局観」のようなものが自分の「物差し」になるはずです

経済や政治について自分の意見を持つためには、過去の歴史や経緯を学んで、「なぜ今のようになってきたか」を知る必要があります。

そのうえで心得ておきたいのは、経済や政治など社会的なトピックに関しては、自分とは違う見方をする人が絶対にいるということです。立場が違えば、見えるものも違うからです。それをしっかりと理解したうえで、「今後はどうなっていくのか」「私はこう思う、なぜならば」ということが言えないといけない。それがインテグリティのある人だと思います。

物差しを持つために新聞や雑誌なども幅広く読む

目先に起きた現象だけを見て、「これはいい」「あれはダメ」と言っていると、一貫性に欠けます。長い時間軸で見たときに、自分の考えが正しかったと思えるようになる、いわば勝率を上げるためには、「蓄積」が重要です。新聞や雑誌を自分の考えとは異なる論調のものも含めて幅広く読み、自分なりに世の中はこうなると予測することを、続けることです。続けているうちに、だんだん正しい予想ができるようになってきます。これには10年か20年はかかるかもしれません。

しかし時間は有限ですから、すべての情報に目を通すのは不可能です。最初に自分のフレームワークを決めて、仕事に関連の深い分野のトピックをいくつか定点観測するといいでしょう。

そのとき気をつけたいのは、自分の考え方を否定するような反対の意見を排除しないことです。好きなものだけ読んでいると、反対の意見があることにも気づけません。自分と反対の意見について、「そうではない」と言い切るためにも、幅広く読む必要があります。

その点、インターネットのニュースやSNSを情報収集の主な手段にしている人は注意が必要です。先にも述べたようにネットやSNSでは、自分の好きなものだけを読むことができる。それがいつの間にか自分にとっての世の中のすべてになってしまうのは非常に危険です。

若い人は、「新聞はタブレットでも読めますよ」と言うけれど、私はやはり新聞紙を広げて、全体を照覧するところに意味があると思います。そして連続して同じようなテーマを見ていること。そうすれば、この件に関しては最近論調が変わってきたなということもわかる。私はいまだにノリとハサミで紙の新聞・雑誌のスクラップを続けています。

どういう世の中になるのか、自分の見方を持つ

企業の経営では、多くのことを瞬時に決めなければなりません。たとえば経済が急速に悪化したとします。そんなときも、「最初に取らなければいけない策はこれとこれ」ということが、瞬時に頭で組み立てられるようでなくてはならない。翌日会社に来て、上司から「あれはどうなっている?」と言われ、慌てて調べるようでは遅すぎます。

そのためにいちばん重要なことは、これからどういう世の中になっていくかという大きな流れについて、自分の見方を持つことです。
何が正解かはわからない、先行きもどうなるかわからない世の中です。しかしそんな中でも、一応、自分が理想とする世界を持ち、そのうえで、自分の取るべき行動を決める。それがインテグリティを持った人間の基本動作です。