※本稿は、「朝日新聞デジタル」より編集・抜粋しています。
猫の腎臓病の治療をめざしている東京大学のチームの研究に突然、2日余りで約2900件、約3千万円の寄付が集まり、今も申し込みが殺到している。
通常、東大への寄付は年間1万件程度で、寄付の事務担当者も「史上初めての出来事」という前代未聞の事態だ。
いったい何が起きたのか?
飼い猫は、腎不全で死ぬことが多い。
ライオンやチーターも含め、ネコ科の動物は腎臓病にかかりやすいことが知られているが、要因は謎だった。
東大の宮崎徹教授(免疫学)らは、ヒトやマウスなど動物の血液中に共通して存在する「AIM」というたんぱく質を発見した。
AIMは、腎臓を詰まらせる死んだ細胞などを排除し、腎機能を維持する働きをもつことがわかった。
ネコ科の動物はAIMをもっているものの、AIMがうまく働かない状態で存在していることを突き止め、腎臓病が起きやすい一因だと2016年に発表した。
宮崎さんは「AIMが機能しないので、猫は生まれた瞬間から腎臓が悪くなっていき、やがて腎不全を発症する」と説明する。
宮崎さんは研究成果をもとに、機能するAIMを猫の腎不全の治療薬として開発することをめざした。
企業の支援を受けて、実際に猫で有効性や安全性を確かめる臨床研究(治験)のめどが付き、「順調にいけば来年初めごろに販売できる段取りだった」。
だが、新型コロナウイルスの影響で、治験の計画が止まってしまった。
宮崎さんは「どうしても数億円はかかるので、コロナで苦境に立つ企業が新しいビジネスに乗り出すのが難しくなった」と話す。
こうした研究内容や現状について、時事通信社が宮崎さんのインタビュー記事を配信し、11日に大手ウェブ検索サイトのヤフーのニュースに掲載された。
すると、全国の猫の飼い主や猫好きから東大に、「支援をしたい」という問い合わせが殺到した。
寄付を担当する基金事務局は急きょ、寄付金の使途を指定できる項目に、宮崎さんの研究を追加した。
12日から14日午前9時までに、約2900件、約3千万円の寄付があった。
東大基金のウェブサイト(https://utf.u-tokyo.ac.jp/voice/ayn)には、寄付者から「どうか未来の猫たちの幸せにつながりますように」「一日も早くこの薬が世に出て、苦しむ猫が減るよう祈っています」「家の猫には間に合いませんでしたが、猫の腎臓病が克服できることを願っています」などのメッセージが集まっている。
提供元:朝日新聞社