◎本稿のPOINT◎
※本稿はナゾロジーアシスタントによる寄稿を編集・抜粋しています。
よく、「本を読むことは良いことだ」と言われるが、読書は科学的にみて一体どういう効果があるのだろうか?
こうした疑問について、文学小説を読んだ際の脳波の変化を調べた研究がある。
少し以前の研究だが、エモリー大学の研究者が、長編小説を読んでいる被験者の静止状態の脳をMRIで定期的に検査し、読書の影響を調査したという。
この研究では、「ポンペイ」という火山で滅んだ街ポンペイを舞台にした歴史フィクションの小説を21人の被験者に読んでもらい、19日間定期的に脳波検査を行った。
すると、脳の2つの領域で持続的な影響を見ることができた。
1つは左側頭葉で、ここは言語を処理する機能を持ち、本の内容の理解に重要な領域とされる。
もう1つは中心溝で、ここは人の感覚と関連した領域だ。
これらの領域には、活性化したネットワークが形成されており、そのネットワークは読書を行っていない間でも永続的に変化が見られたという。
これは本を読んで感じた体験について、脳に長期的な影響があることを示唆している。
小説を読んだ場合の長期的な影響について、面白い点は印象を残していながら、あまり内容については覚えていないというところだ。
人は、感情的な印象や雰囲気、登場人物、部分的な文章、会話など特定のことは覚えていても、全体的な内容は忘れてしまう傾向があるという。
しかし、それでも本を読むことによる影響は、脳波検査でははっきりと長期に渡り残っていることが確認できた。
これは読書によって何らかのアイデア(閃き)を脳が得て、本人の考え方、概念、興味などに抽象的な影響を及ぼしていると考えられている。
また、この研究ではテーマを分けて被験者に読書をさせた場合の影響も調査している。
動物虐待をテーマにした本を読んだグループは、動物などに関連しない内容を読んだグループと比べると、動物愛護に高い関心を示すようになった。
しかし、ネガティブな内容については、そうした影響が現れなかった。
例えば、暴力的な内容の文学を読んだグループと、そうでないグループで攻撃的な思考に影響が現れるかという調査を行ったところ、それぞれのグループに有意な差を認めることはできなかったという。
これは、読書が良い影響のみを残しやすい傾向があることを示していると考えられる。
読み手の想像力に依存する本では、読み手が積極的に関心を持ち、取り入れようとした内容以外、影響を残さない可能性がある。
フィクション小説の読書に共感を育む効果があるということも、他の研究で示されている。
共感とは、他者の考えを感じ取り、理解する能力を指す。
これは心の理論(TOM)課題検査という、高機能自閉症やアスペルガー障害を検査する、簡単な心理学のテストで調べることができる。
共感力が高まると、相手がなぜそう考えるのか、またはなぜこういう行動を取るのかといった思考力が強化され、そこから立ち返って自分の行動や発言、態度などを適切に選択できる能力が備わると言われている。
ただ、読書によって共感力を高める効果は、短時間の読書では認められなかった。
人の性格や思考に大きく影響を及ぼす効果は、長時間の読書が必要となるという。
また、ノンフィクションの小説では、こうした共感力の向上が現れないことも報告されています。
これは物語という形態が高い感情の伝達力を持つことを示している。
虚構の物語のキャラクターたちに対する想像力は、共感力の向上と深い関わりを持つのだろう。
フィクション小説を読むことは、他者の立場になって考える力を養い、また自分の考えの管理や、探求、修正に非常に有効な効果を持っていると言える。
普段親しむコンテンツが動画やゲームばかりだという人は、たまには本、特にフィクション小説に目を向けてみるのも良いかもしれない。