※本稿は東洋経済オンラインへの岡本 祥治(みらいワークス社長)による寄稿を一部編集・抜粋しています。
人生の幅を広げるために、選択肢は多く持っているほうがいい――。副業(複業)をしている人を見ていると、副業は多くの人の選択肢を増やし、人生の幅を広げてくれる可能性を感じる。
人生100年時代においては、健康寿命が延びる一方、年金などの社会保障制度がどのようになっていくか先行き不透明の中、70歳を超えてからも働くのが当たり前の時代になると考えられる。
だが、定年後正社員として職を得られる機会は現状ではかぎられている。そうなると、フリーランスとして働くことになるが、会社員の経験しかない人がいきなりフリーランスになることは容易ではない。
そこで早いうちに副業という働き方で、フリーランスのような経験することは、自分の将来のための準備になるだけでなく、同じ会社で働き続ける場合においても価値のある経験となるかもしれない。
ただ、副業と聞くと「自分には無理」と躊躇する人も少なくない。
しかしながら、例えば同じ業界で違う職種にチャレンジする、ブログや動画を収益化するなどやりやすいところから一歩踏み出すのもありだろう。
実際、副業を実践している従業員や弊社が提供する地方副業サービスを活用して副業を行っている人の事例を見ると、大きく3つ、副業経験者が得ていると感じることがある。
1つ目は、経験値をより早く積み上げられることだ。
これには、本業と同じ領域で副業を実践して経験値を増やすだけでなく、本業とはまったく違う領域で副業を行い、経験値を得るという2つのやり方がある。
例えば前者の場合だと、インターネットショッピングモールを運営する会社に勤務し、副業で地方中小企業のECサイト立ち上げ支援を行っているAさんは、副業を経験することによって販売側の事情を知ることができた。
同じ小売りという領域でも、別の立場の仕事をすることにより、本業の仕事でも販売側の視点が持てるようになったわけだ。これによって、本業においてもモールを利用する販売者の売り上げを伸ばすことに意識が向くようになったという。
後者の例では、弊社で働きながら、副業でスタートアップ企業に勤めている人の例が挙げられる。職種自体は同じだが、本業は人材開発を手がける上場企業、副業は製造業のスタートアップと、まったく違う業種やフェーズでの仕事を経験している。これによって、短期的視点と長期的視点、まったく異なることを両輪で考える思考を身に付けたり、新しい視点やアイデア、人脈が生まれるのではないだろうか。
どちらの場合も、普通に会社勤めを続けていた場合、部署異動や転職をしないと得られない経験だが、ここに「副業」という要素を加えることにより、同じ職種や業界、あるいはまた別の職種や業界での経験値を、通常より早いペースで得られるわけだ。
2つ目は、成果にコミットするようになること。
副業は、ほとんどが業務委託で仕事をすることになり、業務委託の仕事は成果を出さないと継続して契約をしてもらえない。そして、仕事を失うことになる。
言い換えれば、継続のために成果にコミットしてパフォーマンスを発揮しなければならない。
正社員でも、もちろん成果にコミットして仕事をしている人がほとんどだろうが、正社員の場合はパフォーマンスが芳しくなくても給料はもらえるし、仕事がなくなることもほぼない。
副業を行っている人は成果にコミットすることを副業していない人よりーーあるいは、副業をしていなかった時よりーー意識するようになり、本業でも同じ意識を持つようになるのではないだろうか。
3つ目は、マルチタスクのすべを身に付けられるようになることだ。
副業をすると、複数の会社の複数のミッションを並行して担うことになり、マルチタスクが当たり前になってくる。
会社での仕事は、つねに短期目線と中長期目線の仕事が並行して走っている。例えば営業であれば、今月の受注のための仕事と、1年後の受注のために種まきをする仕事を両輪で回す必要があるが、これらは相反する活動になる。時間にはかぎりがあるため、両者に十分な時間を費やすことが難しく、ついつい短期目線の仕事に時間を使ってしまう人も多いだろう。
しかし、今月の受注に集中したら短期的な成果は出るかもしれないが、来月、半年後の受注は大変になる。そこで必要なのは多様な時間軸を意識した仕事のやり方だ。
この点、副業を行う人は本業と副業をこなす、つまり、複数のタスクや時間軸を意識した仕事が求められるため、必然的にマルチタスクスキルが向上する。時間の使い方も必然的にうまくなるだろう。
そしてもう1つ、これは地方副業にかぎっての話だが、地方副業は中小企業の経営者と仕事をするケースが少なくない。多くの会社は何らかの問題を抱えており、経営者はつねにこうした問題を解決して業務を推進するために、物事に優先順位をつけて意思決定を行っている。
近くで経営者の意思決定や悩みに触れることにより、本業の会社でも経営者と同じ視点で「自社内でこういうことが起きているな」と想像できるようになり、視座が上がる。経営者の視点が持てるようになれば、会社や自らの仕事の見方が変わってくるかもしれない。
では、実際に副業している人はどんな経験やスキルを得ているのか例を紹介したい。1人目は、本業が保険会社のマーケティング部長の40代男性。過去に広告代理店で勤務したほか、PR会社でマーケティング・広報を担当していた経験を持つ。
同氏は金融機関のマーケティングは業法で制限されるため、自分のスキルがさびてしまうと感じ、インバウンドの会社でPRやマーケティング戦略を立案する副業を手がけている。インバウンドビジネスだと、「インスタ映え」するアプローチなど、本業ではできない新しいマーケティング・PRの手法を身に付けることができたという。
2人目は、新卒後、大手ネット企業に入社した30代男性。同氏は新規事業の仕事をしたくて、ネット企業に入ったが、新人がいきなり事業開発部門に配属されることはなく、営業からキャリアをスタートした。
「営業を頑張っていたら、いずれは事業開発のポジションへ異動できる」と、目の前の仕事に全力を注いでいたが、実際働いてみると、配属された営業の世界と、希望していた事業開発のポジションは、全然違う世界だった。
営業に配属された人材のキャリアパスは、営業リーダー、営業マネジャー、営業部といった営業としてのキャリアパスであって、営業から事業開発や企画部門への異動は容易ではないという現実を、入社1~2年目にして思い知らされたとのこと。どうしても事業開発の仕事をしたくて、転職活動をした結果、ベンチャー企業から事業開発のポジションで内定をもらったが、家庭の事情で転職は叶わなかった。
しかし、事業開発の仕事は諦めることができない中、「会社の外で、自分のプライベートの時間ですればいいんだ」と思いつき、副業を実践することにしたという。
同氏は業務委託で働くという選択肢ではなく、自分でブログサイトを立ち上げて収益化するという、フリーランス同様の働き方だったが、この経験が本業で買われ、念願かなって、入社4年目に新規事業開発部門に異動となったそうだ。
こうした副業を実践している人たちを見ていると、確実にスキルアップをしていると感じる。これによって、社内だけでなく、転職市場でも価値が上がるだろう。これこそ100年時代を生き抜く強い武器となりうる。
一方、経営者の立場から言うと、副業で得たスキルや経験を社内業務に活かしてくれる社員がいるのは喜ばしいことだ。中には「副業経験者は転職する可能性がある」と不安に思う経営者もいるに違いないが、私の知っている副業経験者は、現時点で本業の仕事を辞める気はなく、「自分のスキルアップや選択肢を増やすため」と口をそろえて言う。
「副業なんて自分には無理」と思っている人は少なくないが、本業にも役立つ経験値を早く積むためやスキルアップのため、と考えればハードルはそう高くないのではないだろうか。転職をするのは勇気がいるが、副業であれば本業を維持しながらできるメリットもある。新型コロナウイルスによって生き方や働き方の価値観が変わる中、副業はこれからの自分の未来図を描く足がかりになるかもしれない。
<著者プロフィール>
岡本 祥治(おかもと ながはる)
Nagaharu Okamoto
みらいワークス社長
1976年神奈川県生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。アクセンチュア、ベンチャー企業を経て、47都道府県を旅する過程で「日本を元気にしたい」という思いが強くなり、起業を決意。2012年、みらいワークスを設立し、2017年にマザーズ上場を果たす。BS JAPAN 「人生が変わる人事の話」に人事の専門家として、20回以上出演。趣味は読書と焼肉と旅行。海外は93カ国以上に渡航。